冷たい隣人

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姉は寒がりである。俺も人より寒がりな方だが、姉に比べればまだまだ常人レベルだ。夏でも制服にストッキングを穿いていくその徹底ぶりは見てるこっちが暑くなってくるほどである。だからコタツを出す時期も他の家よりも早いのは当然と言えるだろう。俺は押し入れにしまわれているコタツを引きずり出しながら、そんなことに思いを馳せていた。 ちなみに両親は海外出張中。二人から振り込まれる生活費を切り崩しながら、俺達寒がり姉弟は二人で生活している。 苦心して出したコタツからコンセントを伸ばし、近くのプラグにセット。埃こそ被っていたが、コタツとしての機能は俄然衰える気配がない。 「準備出来たぞ姉ちゃん」 「うむ、くるしゅーない。大儀であるぞ陽太」 何故か偉そうに言いながらコタツに滑り込み、「ふへぁ」みたいな声を出してだらしない顔になる小辰。…なお、俺の名前はヨウタではない。紛らわしいが、ヒタである。 「活字でしかお送りできないのが残念なお顔だこと」 「何のこと?」 「こっちの話さ」 俺はどうにかはぐらかし、自然にコタツに足を入れた。まるで湯の中に足を浸けたかと錯覚するような暖かい心地よさが襲う。 「ああ~これこれ。やっぱおこたがないと生きていけないわぁ…なんなら一生こうしてたい」 「夏場でも同じこと言えんの」 「あれはあれで中々良いもんだよ。外が涼しく感じるし」 「経験済みかよ!」 熱中症とかも怖いため、冗談でも控えてほしい所である。 「でもおこたと言えばあれも欲しい所だねぇ…陽太、蜜柑ちょうだい。無かったらお煎餅でいいや」 「おこた入ったらこれだよ…途端にだらしなくなる」 「いーからとってこーい」 「煎餅は昨日喰っちまった。蜜柑は缶詰しかないそ」 「やだー剥きたいー。剥かない蜜柑はただのミカンだー」 「剥いてあってもただの蜜柑だ」 コタツに入った小辰はいつも以上にだらしなさが増す。これならいっそ寒いところに放置しておいた方がマシかもしれない。 「ううー、蜜柑んん…」 「…わかったわかった。今度買っとくから」 でも、何故か甘やかしちまうんだよなぁ。
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