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そして夜が明け、いつもと変わらない平和な一日が小鳥のさえずりと共に訪れた。俺は体温ですっかり暖まった寝床から意を決して這い出し、朝の冷えた空気を肺一杯に吸い込む。
「さ、さみぃ…暖房暖房…」
いくら日中と夜は暖房をフル稼働させている温森家とはいえ、さすがに寝ている間まで暖房はつけないのだ。電気料金が馬鹿にならないため、それでもし払えなくなってしまって電気が止められたらそれこそ本当に凍死してしまう。
「…と、その前に姉ちゃん起こさないと」
リビングと二つの寝室で我が家は構成されている。俺は一度その冷えきったリビングを通過し、その姉の部屋へと向かう。
普通、姉とはいえ年頃の女の子の部屋に入っていくというのは男子高校生として憚られるものなのだろうが、正直あんな子供っぽい姉の部屋に入ることなぞ、時間潰しにコンビニに寄るくらい躊躇が微塵もない。むしろ、朝の姉を起こすのは一発目の重労働と言えよう。俺は恥じらいを滅する為ではなく、これからの戦いに備えて気を引き締める為に一息つく。そしてその引き戸に手をかけ、一気にあけた。
本来姉が寝こけているはずのベットの上には、毛布の塊が転がっていた。しかもその塊は、よく見るとかすかに上下している。
これこそ朝の姉の第一形態、名付けて『小辰むり』である。布団の中の暖気を一切漏らさず外の冷気をシャットアウトしたその姿は、底無しの睡眠へと姉を誘うのだ。俺の最初の作業は、この布団の繭を姉から引き剥がすことである。
「ほら姉ちゃん、朝だ。さっさと起きろ」
「んん……ゃ……さむい……」
「起きたら暖房つけてやるから」
「くかー……」
さすがは寒がりの申し子、寝てても寒さの主張だけは欠かさないようだ。
「さっさと起きれー!」
「んおっ」
痺れを切らした俺は布団の端を握り、某野球アニメの頑固親父のちゃぶ台返しよろしく布団をまくりあげた。すると中から小柄な少女が間の抜けた声を出しながら吐き出され、低反発枕の上に墜落した。パステルカラーでなにやらふかふかした素材のパジャマに身を包んだその寝ぼけた布団の妖精こそが、我が姉である。
「目ぇ覚めたか」
「……さむい……」
「それしか言わんのか」
俺の声も無視して、姉は横になったまま体育座りの体勢となって寒気にしぶとく反抗していた。
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