冷たい隣人

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この後、小辰は第二形態『ゾンビ』と化してしまうのだが、毎日目の当たりにしている俺はぬかりない。小辰はしばらく焦点の合わない目で虚空を眺めていたが、しばらくすると鼻をひくつかせて上半身を勢いよく起こした。 「しょうがの匂い…」 「おはよう姉ちゃん。豚汁作ったぞ」 「食べる…」 「よしきた。準備してるから着替えてから来なさい」 姉が寝てから、俺は次の日の朝に食べる分を作っておく。さすがに夏場は食中毒が怖いのでそういうことはできないが、ほどよく冷えてきたこの時期からは常温での保管もできるのでありがたい。しかも忙しい朝でも温めなおすだけで済むので一石二鳥だ。寒がりの姉のためにしょうがをしこたま投入した豚汁の香りを姉の部屋に扇ぎ入れれば、小辰は嫌が応でも起きざるをえないというわけだ。 「陽太」 「なんだよ」 「寒いから着替えたくない…」 「我慢しろ。俺だってもう着替えてんだぜ」 「陽太着替えさせて…」 まだぼんやりしてうわごとを言う姉を見て俺は溜息を一つつくと、その無防備な背中に首の後ろから冷え切った手を滑り込ませてやった。 「みきゃああああっ!?」 「目は覚めましたかな」 「お、おかげさまで…」 そして俺は後ろ手でドアを閉じ、二人分の碗に朝食を盛るためにキッチンへと向かった。 こんな格闘が、俺の一日の一番最初の一仕事なのであった。 ~*~ 「ふはぁ…おいしそうだねぇ」 「一汁一菜どころか一汁だけだけどごめんな」 「具はおかずでしょ?なら一汁一菜だよ。はいいただきます!」 「いただきます」 ごぼうやにんじん、白菜、豚肉をふんだんに入れたしょうがの効いた豚汁を囲んだ二人きりの朝食が始まった。椀を両手で持ち、ふうふうと冷ましてからちびちびと啜るその仕草は子供の頃から何一つ変わっていない。 「あ…温まるぅ~。五臓六腑に染みわたるよ…」 「そりゃどうも」 小辰は本当に美味しそうに料理を食べてくれるため、作るこちらとしても作り甲斐があるというものである。そして俺も自分自身の出来を確かめるため、椀を口許に運んで一口すすった。 ピンポーン。 すると次の瞬間突然インターホンが鳴り響いたため、俺は驚いて豚汁を噴き出してしまう。その拍子に鼻の中にも逆流したため、鼻腔に激痛が走って身悶えした。 「だ、誰だろこんな時間に…」
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