第1話

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『仕事は何時頃終わるの?』 メールを入れた。 『いつもと同じ、なんで?』 こう返ってきた透の返信に、今までの私ならこう返信していたと思う。 『早く逢いたいから』 何も知らなかった頃は迷いなくそう書いた。 でも、今は。 『昨日突然夜勤になったから、今日は早く帰れるとかあるのかな?と思って』 迷ったけれど、こう返信した。 透の返事が知りたかった。 『仕事だから、そんな融通きかないよ』 仕事だから、そう、仕事だからね。 文字を追って、苦笑した。 自分でふっておいて、自分で嫌な感情を纏う。 こうなる事も予想できたのに、馬鹿だよね。 でも、これではっきりした。 やっぱり自分が今まで通りに振る舞えない事が。 これから先も小さな綻びが幾つも生まれてしまうだろう。 そのたびに繕って、でも、また破れて… ね、そうなる前にやめようね。 いつもの時間、それならそろそろ透が帰ってくる。 カーテンを閉めた。 雪が少し積もり始めていた。 この雪のせいでもしかしたらいつもより帰りは遅いかもしれない。 早く帰ってきてほしい。 透と過ごせる時間が少しでも長くあってほしいから。 早く帰らないでほしい。 長くいたら、透の前で笑ってさよならが言えるか分からないから。 自分の気持ちがどちらなのかも分からない。 透。 お願いだから早く… 私の本当の気持ちは、私にも分からないまま、時間だけが、過ぎていく。
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