なんてことはない、いつもの日常

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 青年はまぶたを開く。すると彼の瞳に、窓から入り込んだ日光が突き刺さる。景色は光に塗り潰され、ほとんど白しか認識できない。寝起きの眼には中々つらい物だ。  しばらくして眼が光になれると、彼にとってはすでにお馴染みとなった天井が見えてきた。  ここは産まれた時からの家ではない。去年の十八歳の誕生日に借りた家だ。無論借家なため、そこまで綺麗ではないが。  もそもそとした動きで木造のベッドから這い出ると、彼は鏡の前に立つ。黒髪黒眼、相変わらず見映えのしない地味な容姿だ。せめてこの髪が金色だったら、もっと女性にモテてたかも知れないのに......。彼は輝く金髪を持った彼自身が多くの女性に囲まれている姿を妄想し、一人悦に浸る。  だが、自分にはこの世の誰よりも可愛い彼女が居ることを思い出し、頭を軽く振って妄想を打ち破る。――しかし、ニヤケ顔は健在だ。  今日は『予定』があるのでいつもより早めに起きた彼は、三年程前に発売された『アイスボックス』から朝食を取り出す。勿論お金に余裕があるわけではないので、最新作よりも圧倒的に安い初期の型だ。  このアイスボックス、どうやら『水の魔方陣』を利用して低温を保っているのだが、魔方陣方面はからっきしな彼には詳しい原理は理解できない。  朝食を食べ終えた彼は、溜め置きの水で顔を洗い、歯を磨く。いつもより時間をかけて、念入りに。
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