なんてことはない、いつもの日常

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 しかし、吹っ飛ぶほどの衝撃が発生したのにも関わらず、その身体は地面を滑ることも跳ねることさえしなかった。地面に吸い込まれるように停止したその様子は、周りから見れば『不自然』の一言に尽きるだろう。 「あいたたた......。ちょっと、いきなり殴るなんて酷いじゃないか」  アルマは痛みを訴えながらも、その顔にはアザさえなく、髪型も乱れていない。服にも汚れ一つ見当たらない。地面は石畳に覆われているとはいえ、砂ぐらいついていてもおかしくはないはずだ。  これだけを見て判断するならば、彼は『怪物』以外の何者でもないだろう。  しかしアルマが無傷で済んだのは、笑顔で怒るという器用なことをしている女性、ミュウのお陰なのだ。  それも彼女はインパクトの瞬間、風魔法を行使し、アルマに直接拳が当たらない様にしていた。さらに風魔法で彼の身体を包み、移動させることによって吹き飛んでいるように演出した。  しかもわざわざアルマの頭の周りだけ空気抵抗をなくし、髪型が乱れないようにするというおまけ付きで。  さらに驚くことに、ミュウは初級魔法しか使っていない。一連の技は、初級魔法で中級並みの威力を実現させ、上級クラスの精度で完成させた。これほどのことができるのは、この街では彼女くらいのものだろう。 「――いつも思うけどすごいよな、その技術。流石は――」  そして彼女はその技術と、暴力的ながらも絶対に『怪我人を出さない』というスタイルに尊敬と畏怖の念を込めて、こう呼ばれていた......―――― 「――【優しい拳の持ち主】(ツンデレパンチャー)といったところか?」 「その名前で呼ぶなぁぁぁぁあああぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!」
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