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背後にドーンという効果音が見えるくらい、自信満々に胸を張る酔っ払い。ろれつは回っていないが、調子よく回る舌は尚も喋ることをやめない。
「じゃあこんな話は知ってるか!? この国で最も有名な都市伝説、
――開かずの扉の話について――!!!!」
ピクッ
その話を聞いた途端、一人で酒を飲んでいた黒髪黒眼の青年の眉毛が動いたが、喧騒に包まれた酒場では誰も気が付かなかった。
「おっ、その話なら俺でも知ってるぜ。この国に常に存在してるけど、存在してる場所が決まってない神出鬼没の扉。しかも見つける事ができても、決して開ける事ができないんだろ?」
「そう! けど噂によると、どうやらその扉の先は冥界に繋がってるらしいぜ......!」
そう言って、イッヒッヒと気味の悪い笑い声を響かせる男。その正面に座る男は、その笑い声を聞いて顔をしかめている。
そんな中、黒髪黒眼の青年はゆっくりと立ち上がり、無言でグラスを磨く壮年の男性、この酒場のマスターへと、一般的な銀貨より一回り大きい銀貨を渡しながら話しかける。
「マスター、ごっそさん」
「あいよ、代金は千モアだ。......っと、丁度だな」
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