都市伝説

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 また来いよー、というマスターの気の抜けた声を背に受け、青年は酒場の喧騒を後にした。  木で出来た酒場の扉を押し開けると、辺りはすっかり夜の闇に染まっていた。夕飯時も過ぎ、街を住みかとしているもの達にとっては就寝が近づいているためか、辺りには帰宅を急ぐ者達がいるだけで人もほとんど見えない。  夕方から飲んでいたのにもう夜になってしまったのか......と、青年はため息をつく。  すると、木造の家々がところ狭しと立ち並ぶ街並みを、冷えた風が吹き抜ける。彼はその身体を小さく震わせ、黒めのコートに顔をうずめる。  最近は暖かくなってきたとはいえ、まだ夜は寒い。彼は身体を冷やさないため、早歩きでとある場所へと向かった。  青年は真っ暗な路地裏を歩いていた。ただでさえ暗いというのに、月の光が届かないため、足下はもはや何も見えない。  彼は路地裏で足を止め、息をひそめて辺りを見回す。当たり前だが、彼は人がいない事を確認すると、小さく呟く。 「......マスター権限発動。............『転移』」  彼の身体は、淡い光に包まれる。しかし光が消えた時には、そこに彼の姿はなくなっていた......。  淡い光に包まれた青年。次の瞬間、彼の眼には全く違う景色が映っていた。
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