第Ⅰ章 絶望と再会と 正篇

3/14
前へ
/308ページ
次へ
「やっと……取れた」  視界が歪められる。付けすぎでぼやけていた視界は、レンズを外したことで、今度はぐにゃりとずれる。ああ、それにしてもガチャ目は辛い……。  裸眼酔いを防ごうと、右目を軽くつむってリュックを漁る。教科書、ノート、折り畳み傘、水筒、みかん、空の弁当箱……。 「そんな……」  メガネがなかった。なぜだ……。リュックはあるというのに……。  絶望でますます視界が歪んでくる。  ……軽く寝込みたい。  なんとか希望は見えそうだった。  いったいどこまでこの草原は続くのか。  はるか上空の鳥たちはその翼を踊るように羽ばたかせ、一直線に突き進む。 あの鳥たちはいったい何を食べているのだろう。その疑問からわたしは動き出した。けれども、その答えは日がな一日歩いてもいまだに出ない。  鳥がいるということは、どこかに彼らが食べる食物があるはず。木の実、果実、魚……。なんでもよかった。最悪の可能性は考慮から外して、止むことのない鳥の矢印を辿る。  ……さすがに、さすがに……虫だけは……。  虫は食べたくは……でも、いざとなったら……いや、やはり食べたくない。  ……いざとなったら、そこで考えよう。  こぼすことが決してないように、麦茶を噛むようにして飲む。 「あとこれだけ……」  もう持った時に、重いと感じることのなくなったペットボトル。わたしの寿命のメーターだった。あと百ミリリットル。わたしに残された時間は、これだけ。 人は何も食べなくてもなんとか数日は生きていけるという。断食を宗教でやれるくらいなのだし。  けれど、水分は違う。人の身体のほとんどを構成するという水分は取らなければ、脱水で即、命の危険に陥る。だから、断食をする人たちも水分を取ることは許されているという。  水分を大切にショルダーバッグにしまい、くいくいと目をこする。水平線の先にやっと、見えた。どれくらい先かはわからない。でも、確かにあった。 まだ点ほどにしか見えない。けれども、あった。ぽつりと淡緑の海原に現れた小さな小さな島……。やっと……ようやく陸地が見つかった。
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加