第Ⅰ章 絶望と再会と 正篇

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〈メイさん!〉  ソーマの向かいに立っていた俺は、その声で自分がおかしなことになっていることに気づいた。身体を太く巨大な手で絡め捕られて、締め付けられているようだった。……いや。締め付けられていた。  二の腕と胸を強く圧迫されたせいで、まったく自由の利かなくなった肘から先は、ただただ身体の外へ開くしかなかった。そして、そのまま何かに吊り上げられた……。つま先だけが地にやっとのことで着くくらいに。  あれは……金縛りにあっていたのではなかった。ただ動けないのではない。何かに……確かに『何か』に俺は縛られていた。  肺が潰れそうになり、込み上げてくる咳は止まらなかった。  そして……。その咳を必死に飲み込んで、逃げろ、そう言おうとした時だった。  半ば宙に浮きかけていた俺は、何かにねじ込まれるかのように急激に真っ暗な場所に引きずり込まれた。  ――本当に真っ暗な場所だったのか、それとも、すでに意識を失っていたのかは、今となってはわからない。  ……だが、そのあとに……そうだ。暴れ回るジェットコースターに乗せられたような感覚だけは……しっかりと覚えている。  割れそうな頭の痛みと、胃から込み上げてきては強制的に戻されていく吐き気とともに、覚えている。 「俺だけならいいんだが……」  さんさんと輝き始めた森への道が、目の端にぼんやりとして映る。あの時いた四人の中で俺だけが神隠しにあっていれば、まだいい。  だが、そうじゃない可能性も……十分考えられる。 「ソーマのあれが原因なのは……まず間違いない」  芝生ほどしかない草の絨毯に背を任せる。 「……だがそうなると」 ごろりと右に寝返りを打つ。頬を草がくすぐってくる。 「俺だけが神隠しにあったわけじゃないんだろうな」 苦々しい思いを噛みしめながら、緑色から青色の視界に戻る。 「なんで甘いんだよ、この草」 口に入った草からは砂糖のような味がした。  状況はどう考えても……甘くないというのに。  航海者というものは陸地を見つけた時に、思わず雄叫びを上げてしまうほどに、その喜びを表すという。
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