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向かいの席の彼……。
サヨさんの幼馴染の方で、部長のメイさん。最初サヨさんから名前を聞いた時は、女性の方かと思っていた。だから、サヨさんが、こいつがメイ、とさも男性であるのが当然かのように告げてきた時は、本当に驚いたものだった。
髪が肩に届くか届かないかくらいだったために、サヨさんとほとんど変わらず、さらに、顔つきが女性そのものだった。身長がサヨさんより十センチは低かったせいかもしれない。彼が下にズボンを履いているのでなければ到底信じられなかった。私同様、胸が控えめな女性としか見えなかった。
そんな彼の席は、彼が座っていたそのままの状態……。彼は本当に金縛りにあったように、身動きをまともに取れないままに、宙に浮いて、そして、消えた。
わたしが彼の名前を叫んだ時……そして、山城さんが、まずい、と手を伸ばした時にはもう……。
彼は、いなかった。
左側の席にいた、彼……。
メイさんが忽然と消えて、呆然として、誰よりも狼狽えていた山城さん。たった二人しかいない先輩。そんな二人はこれぞ親友、といった風だった。
メイさんに挨拶した時も驚いたけれど、山城さんの時はそれこそ腰を抜かしそうだった。髪の毛が雪のように真っ白で、首あたりまでさらさらと流れていて、いかにも美少年といった人だった。
細身だったけれど、痩せすぎというわけではなかった。背丈はサヨさんよりも少し大きかったから……百七十センチ以上あったのだろうか。
メイさんとはよく会話をしていたけれど、そんなにわたしやサヨさんとは話すことはなかった。けれども、話すとその名前通りに、とても優しさに満ちた人なんだろうということは、何となくだがわかった。
とても穏やかな人だった。
だからだろうか。
わたしのことを『サクラちゃん』とちゃん付けで呼んできても、軽薄さのようなものは、一切覚えなかった。そのような呼び方など、今まで生きてきた中で一度もなかったから、気恥ずかしかった。
このことも、もう、懐かしむしかないのだろうか。
『現代民話考』という本を片手に腰かけていた彼は、メイさんの次に、後を追うように消えて行った。読み手のいなくなった本が半開きになって、床に落ちてしまっている。拾おうにも、拾えない……。
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