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部室にいたはずだった。
鮮やかな緑が目に飛び込んできて、即座に飽和する。何かが気持ち悪かった。内臓をひっくり返されたような、この気持ち悪さのせいだろうか。何が気持ち悪いのか判然としない……。
「……ッタマいてえ」
くいと曲げた親指で眉間を押さえながら、ごろごろとしてぼやける目で景色を見る。そうだ、これは景色だ。部室じゃ、ない。
「ここは……あ、あいつら……は……」
引き起こした身体は、ものすごい重力で引っ張られたように重たい。馬鹿かと疑うほどの速度で乗り手を振り回す……そんなジェットコースターに、知らぬ間に乗せられていた気分だ。気持ち悪い。頭がぐらぐらして、吐き気がせり上がってくる。
「くそ、いねえ……。どこ行ったんだ……」
目を右へ左へと動かしても何も捉えられない。乾燥してバリバリになっているせいで、動かすたびに激痛が走る。
――あいつら、どこ行ったんだよ……。
あいつらの名前。それをすっかり嗄れてしまっている声で何度呼んでも、返事はなかった。俺の声は、鬱蒼とした森にむなしく吸い込まれていく。
「どうして……誰もいない……」
ギシギシとして動きの鈍い身体を、よろよろとやっとのことで、さっきまで寄りかかっていた倒木に運び切った。あまりの不自由さに、本当に自分の身体であるのか自信が持てなくなってくる。
「ったく、何があった……んだよ、いったい」
〈メイさん――――!〉
ソーマの声が頭を……よぎった……。
……そうか。
ああ、そういうことか。
奥歯がギリッと音を鳴らした。
やっと……掴めた。
「あいつらがどこかに行ったんじゃねえ」
最後に見た部室、あいつら……。
やばい。そう言っても止まらなかった、止められなかった。何かにねじ込まれるように引っ張られる感覚に襲われた俺には……。いや、感覚だけじゃなかった。本当に何かに引きずり込まれるような――――。
「俺が、どこかに来たんだ」
くそ。冗談じゃ、ねえ。
ドンと右手に、こぶしに痛みが走る。
なんとか倒木に引っかかって、もたれかかっていた俺のリュックは、静かに地面に横たわった。
「これが、神隠しか――――」
そう呟いたところで、また俺の声は森に飲み込まれる。
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