鈴木と中村

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 俺は密かに確信した。間違いなく同じ駅を使って通学してる。少なくとも駅に着くまでは鈴木と親睦を深めるチャンスということだ。あわよくば、その後も。なんという行幸。先ほどの失敗を取り返すべく、俺はここぞとばかりに話題を振る。 「なあ、鈴木も電車通学なのか?電車通学ってめんどくさいよなー。時間の融通利かないし、乗り遅れると待ち時間が痛いし。これって電車通学あるある?みたいな。いや、電車通学でうっとおしいことか。単純に」 「……」 「あー、つーかさ、市戸瀬の立ち食い蕎麦屋行ったことある?無いなら今度一緒に行かね?全体的になんでも美味いけど、中でもハンペン蕎麦が美味いんだよ。変わってるだろ、ハンペン蕎麦って。他じゃ聞かないよな」 「……」 「おーい、聞いてる?さすがに立て続けにシカトは酷くないか?つうか鈴木も市戸瀬駅?同じ駅使ってて今まで鉢合わせしなかったって、逆にレアじゃね?どうよどうよ、その辺り」  だが努力も虚しく鈴木は難しい顔をしながら俯き加減に正面を見るばかりで関心を示してくれる気配がない。が、不意にこちらを向くと何やら残念そうな表情を浮かべて言った。 「考え事をしていただけで無視したわけじゃない。というか、そんなに一辺に質問をするな」 「おお、反応した。いや、悪い悪い。なんつーか癖みたいなもん?でさ。昔っからそんな矢継ぎ早に質問するなっては言われるんだけどさ、どうにも治らないんだよな」  ようやく鈴木に反応してもらえた。無視され続けたせいか、そんなことでもなんだか嬉しい自分がちょっと悲しい。いや、折角鈴木が反応してくれたんだ。ここは勢いに乗って押しの一手で友好度を上げてしまおう作戦だ。 「いや、治らないって言えば馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけどさ、この間藤村の奴が──あ、藤村ってのは俺の友達なんだけどさ、そいつが馬鹿でさ。この間も相変わらずの馬鹿っぷりを発揮してやがってさ。なんかマンガン乾電池のことで仕切りに文句言ってたんだよ」 「そうなのか」 「どうやらアイツ百均でマンガン乾電池を買ったらしいんだわ。アルカリ乾電池が百円で四本入りなのに、マンガン乾電池は百円で十本入りだったからこいつぁ安いぜ!と思って買ったんだと。でも使ってみるとあっと言う間に十本使いきっちまって、むしろアルカリ乾電池四本よりも保たないとかぶーたれてたのさ」
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