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「あ?あ、あれって同じクラスの……峰岸、か?なんか回りにいる奴らガラ悪いな。峰岸ってああいうのと付き合いのある方じゃないだろ。どっちかっていうとお嬢様タイプっつーか、そっち系じゃなかったか?あんなヤンキーっぽい奴らと接点があるとは思えないし、それになんか様子が変じゃないか?嫌な感じがするな」
峰岸は大人しくて気弱な感じだ。ひょっとするとガラの悪い連中にナンパとかをされて困っているところかもしれない。思った通り峰岸は人気の無さそうな路地の方に連れて行かれてしまった。これは放っておけない。俺は思わず鈴木にもちかけた。
「助けに行こうぜ、鈴木!あの連中は多分ろくでもない奴らだ!正直言って俺は運動神経に自信はねえけど、二人でなら峰岸が逃げる時間くらいなら稼げるかも知れないしさ!とにかくこのまま放っとけないだろ!」
「断る。厄介事に巻き込まれるのは御免だ。そもそも必要がない」
俺はその言葉に耳を疑った。必要がない、だって?
「御免って、お前っ!このままじゃ峰岸は、そのっ、アレだ!犯られちまうかもしれないんだぞっ!それがわかってて放っとくなんて、あり得ないだろ!?必要ないわけないだろ!助けてやらなきゃ!お前、峰岸の近くで遠巻きに見てる連中と一緒だぞ!関わり合いになりたくないとか、そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!」
「そう考えるのはお前の自由だ。けどそれを僕にまで押し付けないでくれ」
自分でも顔が紅潮していくのがわかった。この感情は、怒りなのだろう。だけどその感情の奔流の中で、むしろはっきりと冴えた理性が鈴木の言い分も正しいことを理解していた。だがもう議論している時間はない。峰岸が連れて行かれてから数分は経ったかもしれない。事態は一刻を争うだろう。
「……もういい、頼まねえよ。俺は鈴木のこと、本当は良い奴なんじゃないかと思ってたけど、俺の勘違いだったわ。俺だって普通は危ないことはしたくねーってのはわかるよ。けどさ、知り合いを平気で見捨てられるってのはわかんねえな」
俺はそれだけ言い残すと、人混みを掻き分けながら峰岸が連れていかれた路地の方へと駆け出していた。鈴木の言いたいこともわかる。けれど俺はやっぱり知り合いのピンチを見て見ぬふりなんてできない。
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