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「うん?見ての通りゴミ拾いだけど?いや、思ったよりも結構あってさー、予定より全然時間かかってやんの。なはははは」
「暇な奴だな。ゴミなんてお前が拾わなくてもその内に公園の清掃業者が片付けるだろう」
「いやー、でもやっぱりポイ捨てされてると放っとけなくてさ。それに清掃業者の人だって毎日来るわけじゃないじゃん?毎日綺麗にってのはさすがに無理だけど、業者の人だけに任せっきりにするよりは良いと思って」
中村は清々しいくらいなにも考えていなさそうな眩しい笑顔で宣う。これが中村が公園のゴミ拾いをしていた理由である。おそらくは嘘偽りなく。
軽薄そうな見た目とは裏腹に、中村という男は掛け値無しに人が良い。損得勘定を抜きにして誰かの、あるいは皆のために行動できる男なのだ。今日のように、公園は月に一度は町から委託された清掃業者がゴミ拾いをするというのに自分で拾っていたり、その他にもお年寄りを助けたり子供を助けたりと毎日馬鹿みたいに飽きもせず善行を繰り返している。しかも中村の場合、そういった親切が押し付けがましくないのだ。お喋りが過ぎるが二枚目、誰にでも優しくそれが嫌味でない。一見すると女子の人気が高くなる要素が多いような気がするが、中村は女子に人気が無くはないが特筆するほどあるわけでもない。
中村は一瞬にやりと笑ったかと思うと、おもむろに僕の隣に座った。そしてニヤニヤと笑いながら僕の方に手をかける。正直、気味が悪い。いや、気持ち悪い。
「ご苦労な事だな」
「いやいや、まあそうは言うけどもさ、たまには良いこともあるんだぜ?良いことも。ま、ホントにたまーにだけどナー」
「そうか。それはせめてもの救いだな」
僕としては軽く流して無視するつもりだったのだが、その程度では中村のお喋りは止まらないようだ。なにかを懐から取り出しながら、より一層気持ちの悪いいやらしい笑みを浮かべている。
「おうよ!これを見ろ!超人気AV女優、小野崎りおんの最新タイトルだぜ?そこの茂みに落ちてたんだよ。いやー、ラッキーラッキー。棚からぼた餅ってのはこういうことを言うんだろーな」
中村が取り出したのは、やたらと胸の大きい童顔の女が裸で誘惑するような視線を投げかけているパッケージのDVDのケースだった。僕はすぐさま本に視線を落とし、素っ気なく答える。
「そうか、良かったな」
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