鈴木と中村

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「いやいや、りおんちゃんってさ、童顔なわりに胸がデカくてさ、ギャップ萌え?っつーの?なんつーかアンバランスな感じが堪んねぇの。それにテクニックも半端じゃないしさ。上目使いであんなことやこんなことされたら……うっひょう!想像しただけでちょっと興奮しちまったぜ」  下品な話を熱く語る中村の目は完全に変態のそれである。口の端からは涎が垂れているので尚更だ。気分を害すると言っても過言ではない。  中村がなぜ女子から黄色い声で持て囃されないのか。それは中村が無類の助平だからだ。中村の辞書に性欲を押し止めるという言葉は無く、性の欲望に素直過ぎるくらいに素直で、良く言えば三大欲求に忠実である。AV女優についてクラスの誰よりも詳しく、アダルト関係の物品の所有量も一番。己のフェチズムについても臆面無く公言する。生けるAV女優名鑑、山羊座のエロハンターなどの異名を持つ男。要するにまごうことなき助平なわけだ。  だが中村が女子からの人気をいまいち獲得できない理由はそれだけではない。 「いかんいかん。家に帰ってからのお楽しみだな。かと言ってこのまま持って帰るわけにもいかないので……コイツの出番ってわけだ!さっき一緒に拾ったなんか知らないバンドのCD!このケースにりおんちゃんのAVを入れておけば誰にもバレないという寸法なわけよ。ぬふふ、俺って天才?」  先程から子供を迎えに来たらしい奥様方がこちらに向かって訝しげな視線を注いでいる。まるで不審者を見るような目付きだ。無理もないと思う。僕も知り合いだと思われたくない一心で素知らぬ顔で座ったまま中村からベンチの端まで離れている。そんなことを一切合切気にも留めずAVのケースを開けた中村だったが、その直後に硬直した。そして酷く間抜けな声が漏れる。 「あ……?」  果たして、ケースの中身は空であった。 「なんで空なんだよ!?これじゃただのゴミじゃん!全然ラッキーなんかじゃねえ!ゴミ拾いしててゴミ拾っただけだ、いやまあゴミを拾っていたんだけども!」 「常識的に考えて中身が入ったものが落ちていると考える方がおかしい」 「ふっざけんなよ!なんだよもう!俺のときめきを返せ!俺がりおんちゃんをどれだけ楽しみにしてたと……──ッ、俺がりおんちゃんをどれだけ楽しみにしてたと!?この高まった興奮を俺はどこへ吐き出せば良いんだ?どこへ吐き出せば良いんだっ!?」
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