鈴木と中村

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 そう言うと中村は立ち上がって公園のごみ箱にごみ袋を捨ててからとぼとぼと歩き始めた。それから僕は中村に別れを告げると駅に向かって歩みを進めた。僕は電車通学なので当然電車で帰るわけなのだが、どういうわけなのか中村も同じ方向に歩き始めている。嫌な予感がするので確認をとった方がいいかもしれない。 「ついてくるな」 「べ、別について行ってるわけじゃねえっての。たまたま同じ方向なんだろ?たまたま、偶然、シンクロニシティなんだろ。わかんねーけど、多分。そういうことなんじゃねーの」 「まさかお前、電車通学か」 「うん?そうだよ。電車通学ってさ、帰りはまあいいとしても行きが嫌なんだよ。通勤のラッシュとかと時間かぶっててギュウギュウで……って、まさか鈴木も?」 「駅は?」 「無視かよ。はあ、まあ駅って、帰りに使ってる駅だよな?だったら市戸瀬だよ、JRの。ちなみにあそこの立ち食い蕎麦屋は美味いぞ。マジでな」  ──最悪、だ。帰りに使う駅が一緒ということは駅まで中村と一緒、下手をすれば電車の中でも電車を降りても中村に付きまとわれる可能性があるということではないか。そんなことは真っ平御免である。中村は決して悪い奴では無いと思うのだが、同時に僕の苦手な人種だという確信もあるのだ。正直なところ、これ以上関わり合いになるのは避けたい。適当な理由を付けてでも中村を先に帰らせるべきなのだがろうが、それはそれでわざとらしくて感付かれそうだ。中村は馬鹿だが決して頭は悪くないのである。 「おーい、聞いてる?さすがに立て続けにシカトは酷くないか?つうか鈴木も市戸瀬駅?同じ駅使ってて今まで鉢合わせしなかったって、逆にレアじゃね?どうよどうよ、その辺り」 「考え事をしていただけで無視したわけじゃない。というか、そんなに一辺に質問をするな」 「おお、反応した。いや、悪い悪い。なんつーか癖みたいなもん?でさ。昔っからそんな矢継ぎ早に質問するなっては言われるんだけどさ、どうにも治らないんだよな」  僕は思わず額に手を当ててため息をつく。最低でも駅まではこれが続くというのは、僕にはとてもではないが耐えられそうにない。そもそも僕は人に構われるのがあまり好きではないのだ。今まで人付き合いも必要最低限で済ませてきていた。電線にとまって鳴いているカラスが僕を嘲笑っているように聞こえるのは、果たして気のせいだろうか。
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