掌編

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   透明感がある青い煙を立てながら、火種はゆっくりと手元にすすむ。それが人生の縮図のようにも感じられる。逆らえぬ時の力により、命をすり減らし現在を焼却し、過去が煙のように儚く消えてゆく。  急に青木は不愉快な気分になった。燻っている、との表現が自分に重なりすぎている。  バーテンダーとして独立したい、と思いながらも、雇われ店長のまま五年過ごしている。  そして、状況は刻々と悪化している気がした。独立して店を構えた知人の中には、 「ダメだよ、今の時代じゃあ」と語り、親切にも惨状を告げて、青木の理想を断念させようとする人も多い。  さらに、あくまでバーテンダーとして貫きたい青木と、レストランへと方針を変えたいオーナーの間には亀裂が生じはじめていた。
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