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ヘッドライトが青木の瞳に映った。空車の赤い文字が近づいてくる。青木が挙手すると、タクシーはウインカーを点滅させながら減速し、目の前に停車してドアを開いた。
「白波町まで」
タクシーに乗り青木が発した。
「しらなみ……のどの辺り?」
頭部に白髪が混じったドライバーは冷淡な声で訊く。
「近くになったら、説明します」
「そうですか。じゃあ、とりあえず向かいます」
目的地を言うことすら、青木には億劫だった。最近、人との関わりを煩わしく思っていた。接客業における一種の職業病にちがいない。
タクシーが発進してからも、わざと顔を窓のほうに向け夜景を眺めている体にした。
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