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俺は昔の事を思い出しつつ、男が次にどう出るかワクワクしていた。
そんな俺を理沙は疑うことなく相変わらず一人で勝手に話している。
まぁ視線を理沙に向けているから気づかないのだろう。
さっきから言ってるように当然だが理沙の話は全く耳に入ってこない。
俺は後ろのカップルに意識を集中していた。
どうやら今の所、会話は聞こえてこない。
女は恐らく出されたメイン料理を呑気に食べているのだろう。
さて、どうする?
「なあ!俺とけ、けっ…こ…」
俺は終わりか?と思っていると男の声が聞こえてきた。
その声はさっきの会話と違い大きくて、これに賭けているんだろう。
すげえな。諦めてなかったんだ。
この時の俺はこの男が初々しく感じ、応援したい気持ちでいっぱいだった。
よしっ!あと少し!
と思っていると、同時に足元にヒラヒラと落ちてくるものが視界に入った。
その瞬間、また話を遮るかのように女の声が聞こえてきた。
「あっ!」
俺は女の声につられるように足元を見た。
これはどう考えても女のハンカチだ。そして女は男の話よりもハンカチに気を取られている。
俺はそれを見た瞬間、「終わったな」と思った。
だってそうだろ? こんな時にハンカチ落とすか?
いや、百歩譲ったとしても、ここは黙って聞くべきだ。
それに2度も邪魔されたんだぞ。さすがに男だって気を悪くしているはずだ。
すると俺の予想が当たったのか怪訝そうな男の声が聞こえてきた。
「何?」
「ごめん、ハンカチ落とした」
女もようやく状況を理解したらしくバツが悪く感じたのだろう、語尾を弱めながら言った。
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