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俺はバツが悪そうに気まずく言う女の言葉を聞きながら「はぁ」と肩を落とした。
…何やっているんだか。
肝心な所でウエイターに邪魔されて。
2度目は女がハンカチを落とす。
こんな不運な男はそうはいない。
きっと男に今日は止めた方がいいと示しているのだろう。
…不憫だな。
俺は男にチラッと足元に落ちているハンカチに視線を移した。
それにしてもこのハンカチ…。
白地に色鮮やかな沢山の小さな花が散りばめられていて、いかにも女性ウケしそうなハンカチだ。
明らかに俺の足元にあると無視なんかできないよな。
…しょうがねーな。
俺は軽く一息吐くと体を屈めて落ちているハンカチへと手を伸ばした。
そしてハンカチを手にした瞬間、視界が真っ暗になった。
視界は真っ暗になったが、停電ではない。
ハンカチの持ち主の女も拾おうと体を屈めた所、俺の下に潜り込むような形になったのだ。
…何だ、この女。ハンカチは俺が拾っているのに相変わらずタイミングが悪いな。
俺は体を起き上がらせようとすると、ふわりといい香りがしてきた。
ん?何だ?この香り?
拾おうとしているハンカチにある花のようなフローラル系の甘い香りがする。
それは香水のようなキツイものではなく、たぶん側にいないとわからない位の香りなんだろう。
シャンプーか?…でもこの香り悪くないな。
それ以上に何だ?この不思議な感じは?
女の体温が、香りが俺を離れさせようとしない。
俺、この女知らないのに。知らない女が触れているのに。
何故か嫌な気がしない。
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