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理沙は黙って俺を見ていた。
その表情から何を思っているのか探れないが、きっと怒っているに違いない。
話を止められたんだし、当然だよな。
でもこの女は悪くない。
ハンカチを落としたのも故意ではないし、偶然が重なっただけだ。
俺はもし理沙が女の事を悪く言うようならば反論しようと思ってた。
すると理沙は視線を外すと「ふふっ」と微笑んだ。
「あなたが他の人に親切にするなんて珍しいわね」
「えっ?そうか?」
俺は理沙の反応が意外で拍子抜けして思わず間の抜けた声を出してしまった。
そして理沙をマジマジと見たが、怒るどころか感心しているように見える。
「そうよ。あなた人に対して興味なさそうなのに、意外に優しいのね。そのギャップがいいのよ」
「ふーん」
「そうそう。私ね、会社を辞める事にしたの」
「何で?」
「独立よ。前から少しずつ進めていたんだけど、やっと上手くいきそうなの」
俺は理沙が独立すると聞いても興味がなかった。
それは前々から独立するような事を言ってたからだし、俺にはそんな気がない。
「ふーん」
「あと半年。それまでには全てを終えているわ。その時は是非あなたにきて欲しい」
理沙はそう言うと頬杖をつき、俺をじっと見つめた。
その瞳はまるでもう逃げられないと言わんばかりの強さがあった。
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