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これは私がまだコウに再会する前の話。
高層ビルの最上階にあるスカイレストラン。
そこは街の夜景を一望でるような大きな窓があって。
まるで宝石箱をちりばめたように。
手を伸ばせば届くのではないかと錯覚してしまう。
そして目の前には黄金色に輝くシャンパンと前菜の鯛のカルパッチョをウエイターが彩りよく綺麗に並べている。
この前菜からメイン、デザートにどんなものが出てくるのか想像しただけでもワクワクしてくる。
このレストランは雑誌で紹介されているせいか周りはカップルも多く、私のすぐ後ろの席にも身なりの整った大人な感じのカップルがいる。
男性は私に背を向けているからわからないが、連れの女性はキリッと整った顔にスーツをパリッと着こなしていて。
それはまるでトレンディードラマに出てくるようなキャリアウーマンって感じでこの場の雰囲気が良く似合っている。
だから余計、自分には不似合いではないかと場違いな気分だった。
こんな洒落たレストラン正直言って私には似合わない。
どちらかというと賑やかな居酒屋でビールをグイグイ飲む方が気が楽だ。
私はウエイターがいなくなるとテーブルに胸を付けるように体を屈めた。
そして智にこそこそと小さな声で言った。
「ねえ、ここって高級店でしょ?大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。今日は1年に1度しかない誕生日なんだし気にするなよ」
智は余裕があるのか、にこやかな表情で私を見ている。
…そうだ。今日は私の誕生日。
その為に智は前からこのレストランを予約してくれたんだ。
私の誕生日を祝うために。
雑誌を見ていいなぁと言ってたこの店を。
智の好意を思うとコソコソしている自分が恥ずかしくなってくる。
「…うん」
私はストンと肩を竦めるとやや下を向きながら頷いた。
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