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「ん?」
私は余所余所しい智を不思議に思い小首を傾げた。
智は何か言いたげそうにソワソワしている。
それは落ち着かない様子で今から一世一代の告白をするみたいだ。
「俺達そろそろ…」
智は背筋をピンと伸ばし、私を真っ直ぐに見つめると唇を震わせながら話し始めた。
すると話を遮るかのようにメイン料理を手にしたウエイターがスッと私達のテーブルの前に立ち止まった。
「メインディッシュの子羊のロースト、無花果のソース和えでございます」
ウエイターは智が話していた事に気づいていなかったのか手慣れた手つきでメイン料理をテーブルに並べていく。
智は「あ…」と呟くとそのまま黙り、気まずそうにウエイターの手慣れた手つきを見ていた。
私はそんな智が何を言いたかったのか気になりつつも、目の前に置かれた料理があまりに美味しそうで思わず声を出してしまった。
「うわぁ!美味しそう!早く食べよう」
ウエイターがいなくなると私は早速フォークとナイフを持ち、子羊のローストにサクッとナイフを入れた。
ナイフを入れた個所から赤身が見え、そこから美味しそうな肉汁が溢れてくる。
そしてやや茶色がかった無花果のソース。
無花果と言う位だからやや酸味のかかった甘めのソースなんだろう。
考えただけでも美味しいのがわかる。
この時の私は智の事ではなくお肉を早く食べたい衝動に駆られていた。
そして一口大に切ったお肉を口に運ぼうとすると智の声が聞こえてきた。
「なあ!」
「何?」
私は手の動きを止めると智を真っ直ぐに見た。
智は両手をテーブルに置き、今にも立ち上がるような勢いで私を見ながら言った。
「俺とけ、けっ…こ…」
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