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私がぼんやりと男性の背中を見ていると智の声が聞こえてきた。
「大丈夫?」
その声に私はハッと我に帰る。
私ったら何やっているの!
智がいるのに他の男性が気になるって。
しかもプロポーズの途中だったのに。
そんなの智に失礼じゃない!
「ごめんね、話の途中だったのに」
私は慌てて体の向きを変えると背筋を伸ばして、じっと智を見つめた。
もちろん話を聞くためだ。
それに場の雰囲気を壊したくない。
智の想いを無駄にしたくはない。
でももう遅かったのか、智は「ふっ」と息を吐くと視線を下に落とした。
そして呟くように小さな声で言った。
「いや…また今度でいいや」
智はそう言うと黙って食事を始めた。
きっとタイミングを逃した事で気まずくなったのだろう。
料理一点だけを見つめて、ただひたすら食事をしている。
私の事は全く見ずに…。
その様子から今日はもう言わないんだなと思った。
でも、私から追及してはいけない。
追及なんかしたらプライドを傷つけるだけだ。
そんな智を見ていると私はもう何も言えなくなった。
だから私も黙って食事をする事にした。
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