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「少し歩こうか?」
いつものように早川が言った。
「うん。」
いつものように私も答えた。
早川の前ではいつもどきどきしていて自分でああしたい、こうしたいとかわがままに振る舞った事はない。いつも言いなりだ。
店から出るとどこというあてもない様子で人混みの中を駅の方向に歩いていった。
早川が私の手を取った。私はほんの少しだけ早川に体をよせた。早川の匂いがする。早川の肩に頭をちょこんと乗せるようにして私は言った。
「早川さん、私まだ帰りたくない。」
早川は黙って私を見た。
「帰りたくない。私、早川さんともっと一緒にいたい。」
私も早川を見つめて言った。
「いいの?遅くなっちゃうよ。」
と早川が言った。私は黙って頷いた。
早川は黙ったまま歩き出した。私も手をひかれるまま歩いた。
早川がどこに行こうとしているのかはっきりわかっていた。つまり私が帰りたくないと言った意味が正確に早川に伝わったという事だ。
ホテル街まで来た。怪しげに光るネオンの数々を見ているだけでこれから起こる事が頭に浮かび心臓がバクバクした。
早川の意識の中にも私を抱くということがあったことが嬉しかった。そんなことを考えてしまい期待で子宮がジュンと熱くなった。
黙って手を引かれるままついていった。
一軒のホテルの入口に入ったところで早川はいったん立ち止まり私の方に振り向いて言った。
「本当にいいの?」
私はこくりと頷いた。
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