春の夜の出来事

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部屋に入るとぎこちない空気をごまかすように早川は煙草を吸った。 早川といる時はいつも半オクターブくらい気持ちがうわずっている感じだったが、この時は心臓が体の中で跳ねているようで鼓動は痛いくらいだった。 早川が煙草を灰皿で揉み消してからスーツの上着を脱いでハンガーにかけた。私のジャケットも脱がせてかけた。 私はされるがままに立っていた。背後から早川が私の腰を抱きベッドの方に引きよせた。 私は呪縛から解かれたように早川の胸に飛び込んで腕を背中に回した。そして 「キスして。」 と言った。早川の唇が私に触れた。煙草の味がした。早川の指が私の髪の中に入り私はゾクゾクしてキスに夢中になった。 「抱いて。」 きれぎれの息を吐きながらやっと言った。 早川の指が私の服を脱がしていく。そうしながら彼自身のワイシャツも脱いだ。 滑らかな胸板。早川の匂いに恍惚となる。ずっとこの胸に抱かれたかった。ずっと抱いて欲しかった。 「抱いて。」 もう一度言った。
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