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新宿。19時。
トシヒロが人混みの中からこちらに近づいてくる。
背が高いからわかりやすい。私を見つけてニッコリする。
「ごめんね、待った?」
「今ついたところだよ。」
すぐに彼は長いリーチで私の身体を包み込む。
とたんに私は彼が欲しくなる。
トシヒロとは食事らしい食事はしないのがいつもの事だ。二人で中生を1、2杯ずつ飲んで、軽くつまみながらいろいろな話をした。
彼はおしゃべりなタイプではないけれど、ほとんど黙って私の話すのを聞いているというほど無口でもない。
でもシリアスな話はサラっとかわすタイプだ。そもそもトシヒロとシリアスな話題になることはほとんどない。
口調はひょうひょうとして柔らかく私とは対称的だ。
会計を済ましていつものようにホテルに向かった。
寒いところに出ると木枯らしに身体が震える。トシヒロが私の冷たい指先を自分の手で温めてくれる。
時間を惜しむように慌ただしくシャワーを浴びる。
私はトシヒロの胸の傷を愛撫する。何故かこの傷を愛撫するのが好きだ。
彼も私を愛撫する。
「来て。」
愛撫にたえきれなくなると彼を受け入れる。あまりの快感に涙が出る。
トシヒロとは会話も楽しいし、さりげなく触れ合うスキンシップもくどすぎず、さりげなくていい。
でも一番いいのはセックスだ。彼のやり方、クライマックスへのスピード、タッチの強さ、そういったテクニック以前のテンポのようなものの相性がいい。
絶妙のタイミングでの動作。誰とでもこんなにいいわけではない。感覚的にはトシヒロも同じように私を味わって私との行為に歓喜しているのがわかる。
長い期間のパートナーではないのに初めてのセックスの時から抜群の相性なのはわかった。
一度のセックスで細胞の全てが満ち足りたようになる。それでもまた身体が触れ合えばとたんに発熱して夢中でお互いを貪り合う。
歩くのが困難なほどに愛し合い、急いでホテルを後にした。
トシヒロはセックスの後、急に憑き物が落ちたようになるようなそっけない男ではない。
終わった後も向かう時と同じように凍える寒さから守ってくれた。
23時。
私達は別のホームから反対方向へ帰路に着く。
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