意味のあるもの

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のろのろと洗面所へ行き、バスタブにお湯を張った。嫌な気分を払拭したくて入浴することにした。 湯につかりながら自分の裸を見た。スタイルは悪くない。生まれつき、きめの細かい肌は今もしっとりとして水を弾いた。 それでも二十歳の弾力、玉子のようにつるりとして滑らかな肌には戻れない。男の味を覚えたばかりの女が全身から放つ鮮烈なフェロモン。もぎたてのフルーツのように「私を食べて」と男を誘う。 時間は残酷だ。 仕方がない。そう、仕方がないのだ。花の色はうつろうものなのだ。大昔から言われて続ける真実。 髪を洗い、身体を洗い、顔を洗った。 年下の男とつき合うなら取り乱すまい。余裕を持っていよう。みっともない女にはなりたくない。そう思った。 髪を乾かしていると電話がなった。 晃司だった。 「家にいるの?」 「うん。」 「さっき電話したけど出ないから心配になって。」 「ごめんね。お風呂入ってた。」 「そうか。無事家にいるならいいんだ。」 「大丈夫だよ。ありがとう。」 「ミサキ。」 「何?」 「店でミサキに会えてよかったよ。」 「私もだよ。もう仕事は終わったの?」 「うん。もう少しだな。」 「頑張ってね。もう切るね。」 「うん。声が聞きたかったんだ。聞けてよかった。 ゆっくり休んでね。おやすみ。」 晃司の声を聞いていたら切なくなった。泣きたくても泣けなくて、喉のあたりが痛かった。
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