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診察室に入ると初老の医師がいた。
「妊娠の検査ね。」
と言うと最終月経や性交を確認した。
超音波の画像をみながら、ほら、と言う感じで
「第8週ね。」
と言った。
私はおうむ返しに
「第8週…」
と呟いた。ピンと来なかった。この期に及んでもまるで現実感がなかった。自分の身に起きていることに思えず、魂が身体から抜け出して俯瞰しているような感覚だった。
「予定日はえーと、11月15日ね。はい、これあげるから。」
そういって超音波の画像を私に渡した。
真っ黒な中に白い線と点があること位しかわからなかった。
「帰りにそこで母子手帳をもらっていって下さい。」
医師は続けた。
「それからね、うちはもう分娩はやってないの。分娩の時には紹介状書くけど、どうするか決めておいて下さい。」
上の空でいることは許されなかった。どんな精神状態だろうと俯瞰しているわけにはいかなかった。次々と現実がふりかかってきた。
私の中に生命が宿っていて、今この瞬間も成長しつつある…
そう言われているんだ。
言葉が頭の中を素通りするようで実感が全くわかなかった。
帰り道、母子手帳を見てみたが自分の手の中にあるものが信じられなかった。
とにかく今夜、晃司に話さなければならない…
そう思うと、胃がさらに重くなった。
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