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「いない、けど……」
「おじゃまします」
私に有無を言わせないまま、
正志さんは靴を脱ぎ
私を玄関に残してリビングに入っていった。
いつもとはあまりにも違う様子に
怖さすら感じて
恐る恐る私も後に続くと、
ソファーにドカっと腰をかけて、
私を見ようともせず、
部屋をぐるりと見回していた。
「久しぶりだな。ここくるの」
だけど、つぶやくように出した声は
弱々しくて。
「正志さん……。大丈夫……?」
心配せずにはいられない。
今まで見たことないほど、
心も体も弱っている……。
正志さんのこんな姿、想像したこともなかった。
「俺……メシが食えねー」
ぼそっと小声で言う。
「え……」
ご飯が食べられないって、私のせい・・?
「もう限界……」
正志さんは、ソファーに座ったまま、
リビングの入口に立っている私と
ようやく目を合わせた。
正志さんの目は、悲しさを帯びているけど、
すべてを見透かしてしまいそうな鋭い目は、そのままで、
私の心の中が全て読まれてしまいそうで、
思わず目をそらしてしまった。
「とりあえず、なにか食べる?なんか作ろうか……?」
今、別れ話を切り出すには、
正志さんのこの状況じゃ、あまりにも辛すぎる……。
「じゃあ、真琴を食わして」
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