29.自覚

3/6
前へ
/35ページ
次へ
夢中で自転車をこいでいた。実際には横風だったにも関わらず追い風に吹かれているような何かにつき動かされるような感覚だった。 気づくと池田の寮のすぐ裏まで来ていた。弾んだ息を少し静めてから電話した。 池田はなかなか出ない。10回ほどコールしても出ず留守番電話に切り替わったので電話を切った。その場でぼうっと立っていた。 (何やってんだろ?私……) それでも立ち去る気は起きなかった。このまま帰るつもりはなかった。 リダイヤルしてまた呼び出す。今度は5回ほどのコールの後で池田が出た。 「何?」 構えたような言い方だ。 「寮の前にいるの。出てきて。」 「え?どこ?」 「寮の前っていうか横の道っていうか。そこにいるの。」 「わかった。今行く。」 親の目を盗んで夜中に抜け出したティーンエージャーのようにそわそわしていた。 自分が何をしたいのかよくわからなかった。ただ本能に従ってここまできてしまったのだ。 どうしたの?と言われても説明出来そうになかった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加