29.自覚

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「どうしたの?」 驚いた顔で池田が私を見た。職場から戻り着替えたようで今はTシャツにジーンズ姿だ。 「どうしてかわからないけど来ちゃったの。会いたくて。考えてたら会いたくなっちゃって。私、変……どうしちゃったんだろ……」 池田はマジックで動きを封じられたみたいに驚きの表情を浮かべたまま固まってしまった。 「急にどうしても会いたくなって、会わなきゃと思って……」 私は興奮して一人でしゃべっているみたいだった。 「行こう。」 池田は急にマジックから解かれたみたいに私の腕を掴んだ。 「行こうってどこへ?」 「とりあえずここじゃみんなに見られるから。」 池田は言いながら私の手を引いてずんずんと歩き出した。すぐ近くの公園の木の影になる目立たない場所に来て止まった。 「いったいどうしたの?」 池田が聞いた。私は帰り道、正美と話をしたと言った。詳しい会話の内容には触れなかった。 ただ正美に言われたことでいろいろ考えていたら会いたくなって家を飛び出してきたのだと言った。 「鈴木さんと私が二人でいるのが嫌なら会わない。別に会わなくたって全然構わない。池田くんが嫌なことはしない。そう思ったの。 気づいたの。私。池田くんが好き。」 自然にそう言っていた。
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