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恵は自分から話を聞いて欲しいと誘っておきながらなかなか話し出さなかった。それほど悩んでいるのか。
「ごめん、ちょっと……」
恵はトイレに行くと言って席をたった。私はコーヒーを飲んだ。恵の様子に何か引っかかった。どうしたのだろう?
「ごめんね。」
戻ってきた恵が言った。
「大丈夫?」
「うん。大丈夫。」
そう言ったまま、また黙ってしまった。
「彼のこと?彼のことで相談でもあるの?」
黙りこんでらちがあかないので私から水を向けた。
恵は冷めてしまっているに違いないティーカップを両手で包むようにしながらふぅと大きく息をついた。それから重い口を開いた。
「ミオに謝らなきゃいけない。」
「え?」
「謝らなきゃいけないの。」
何のことかわからなかった。話が全く見えない。
「それで来てもらったの。」
恵は顔を上げて私を見た。その表情は苦しそうに歪んでいた。
「全然話が見えて来ないんだけど。何?」
嫌な予感がした。恵の表情はただものではない。恵を悩ませている話というのは私に関わることなのか。
「恵の相手ってまさか……?」
突然、神の啓示のように、稲光のように降りてきた疑惑。衝撃のあまり口に出来ないが何故か間違いないという確信があった。
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