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「昨日のことだけど。」
私は話しはじめた。午後の休憩時、まだ食堂はまばらだった。その中でも人のいない場所を選んで座った。
「『俺には関係ないってこと?』って聞いたでしょ?あれはどういう意味?」
私は思い切って核心を突いてみた。池田は黙っていた。私もじっと池田が話し出すのを待っていた。
「わからない。」
やっと口を開いた池田はそう言った。
「ただ……」
池田は何かを言いかけて躊躇した。
「ただ何?」
「ただ、嫌なんだ。」
私は「何が?」とは聞かなかった。
「嫌なんだ。誰かと一緒にいるのは見たくない。鈴木さんと一緒にいるのは見たくなかったんだ。」
苦しそうに池田は言った。私は何も言えなかった。
「ごめん。」
そういうのがやっとだった。
「謝るなよ。」
池田は立ち上がりながら言った。
「好きなんだろ?鈴木さんのこと。だから俺が嫌だろうが何だろうが関係ないだろ?」
そう言って頑なな表情で私を一瞬凝視した。
「もう行くから。」
池田はそういうとさっさと先に出口に向かった。
「待って。」
私は急いで追いかけた。
「待って。」
食堂を出たところで池田の腕を掴んで追いついた。階段の下から正美と市田が上がって来た。二人の視線が私と池田を見ていた。
私も二人を見た。一瞬思考が停止した。
池田は私の手を振りほどくと二人の脇をすり抜け階段を一人で下りていってしまった。
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