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びしょ濡れで家に戻った。狭い玄関スペースがすぐに水で濡れる。着ていた物を全て脱いですぐに洗濯を始めた。
シャワーを浴びに浴室へ入った。初夏とは言えずぶ濡れの体にシャワーが寒くて震える。
しばらくシャワーの下であたたまろうとしてみたがなかなか震えは治まらなかった。
体中を洗った。髪にも身体にも嫌なものがついている気がした。恵の煙草の匂い。の最後の不敵な笑み。
全て洗い流して何事もなかったようにしてしまいたい。泡が消えてなくなってもざあざあとシャワーを浴び続けた。
バスタオルで身体を包みリビングにきた。結局私の帰ってくる場所はここしかなかった。
住み慣れた部屋が今は居心地が悪い。この部屋の全てが嘘だったのか。全てが白々しく虚しい。
放心状態のままどれくらいいただろう?立ち上がって洗濯物を室内に干し髪を乾かしてからバッグから携帯を取り出した。
いつになるかわからない悟の帰りをただ待っているのに耐えられなくなって電話をしてみようと思った。
メールが来ていた。リュウからだった。
『もう帰ってる?楽しかった?明日どうしようか。行きたいとこある?決めといて。』
とても返事する気分ではなかったので無視して悟の携帯を呼び出した。
いつもならあまり長く呼んでいると悟に叱られるので5回位で切ってしまう。悟から折り返しかかってくることはまずない。
私からの電話など大した用事もなく取るにたらないものとしか思っていないのだろう。
今も悟は出なかった。それでもいつものように黙って切ることはしないで呼び出し続けた。執念深い位に呼び出し続けた。
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