5人が本棚に入れています
本棚に追加
私が口をつぐむとほんの数秒の間があって正美が口を開いた。
「私には関係ないかもしれないけど……
鈴木さんは?」
「鈴木さん。そう。鈴木さんのこともあるし……」
私は曖昧に言いかけた。
「ミオは彼氏もいるし鈴木さんとのこともある。だから池田のこと、気がないなら気をもたせるようなそぶりは残酷だよ。」
正美の言い方にははっきりとした棘があった。
「私気をもたせるようなそぶりなんてしてない。」
なじられたようで心外だった。
「ミオにとっては何気ない普通のことでもあいつはまだ子供だから。」
いくら正美でもそんな決め付けたような言い方にかちんときた。私はちょっとムッとして黙った。
「池田はミオと違って女慣れしてないうぶで不器用なヤツだから。ミオは女子大生の頃から男あしらいなんか慣れたもんでしょ?」
「そんなことないよ!」
思わず強い口調になってしまった。
「とにかく気がないならあいつのこと振り回さないであげて。池田がかわいそう。」
正美の一方的な言い方に腹が立った。でも反論するだけ無駄な気がした。
「正美の気持ちはわかった。でも私振り回してなんかいないしそんなつもりもないから。正美の気持ち知っててこんなこと、ごめん。」
「私の気持ちはもういいの。仕方ないよ。一方的な片思いだから。私もこんなこと言いたくはなかったんだけど。ごめんね。じゃあ行くから。」
正美はそう言って走り去った。私たちは気まずい空気を残したまま別れた。
最初のコメントを投稿しよう!