46.真夜中の電話

8/11
前へ
/35ページ
次へ
「ミオ……」 やがて沈黙を破って悟が口を開いた。 「戻ってこいよ、ミオ。」 悟の声はほとんど優しげだった。こんな柔らかなトーンで悟から呼び掛けられたのはここ何年もなかった気がした。 「ミオ……」 私は黙っていた。 「8年以上も一緒にやって来たんだぞ。相性が悪かったらそんなに続かないだろ?結婚したがってただろ?俺と。するつもりで待ってたんだろ?」 その通りだった。私はずっと悟からのプロポーズを待っていた。記念日の度に期待した。 悟の誕生日、私の誕生日、クリスマス、バレンタインデー、同棲して一年経った日、悟の昇進が決まった時。 期待が裏切られる度に次の記念日に期待した。最近はもうすぐ来る悟の30歳の誕生日を待っていた。 「やり直そう。」 悟が受話器の向こう側で言っていた。私は何も言えず黙っていた。 「一人になる時間が必要なら待ってるから。戻ってこいよ。」 (そんなつもりはないから……) それを口に出して言いたかった。そのかわりに出てきた言葉。 「鍵、送るから。」 「返さなくていい。まだ荷物も残ってるし持ってろよ。」 「荷物は捨てて。じゃ。」 私はそのまま電話を切った。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加