46.真夜中の電話

11/11
前へ
/35ページ
次へ
「着替えたら行くね。」 洗面所から出てきたリュウが言った。 「ムースとかワックスみたいなの買ってきたほうがいいな。」 言いながら髪をちょっといじった。 「別に変ではないよ。」 私は言いながらリュウもずいぶん変わったと思った。 正美と一緒に初めて飲んだ時、冴えない黒ぶち眼鏡をして中学生みたいな服を着ていたリュウのことをパッとしない男の子だと思っていた。 今、目の前にいるリュウは洗練されているとまでは言えないがセンスは悪くなくこざっぱりして爽やかとさえ言える。 職場では相変わらず気難しい空気を発しているがその分リラックスした時に見せる笑顔とのギャップが効果的で魅力的だ。 着替えを済ませたリュウが玄関に立った。 「忘れ物ない?」 私は周りをざっと見渡して言った。 「大丈夫だよ。何か困ったこととかあったら連絡して。今日は定時で上がってすぐ来るからね。」 「うん。いってらっしゃい。」 私は玄関で手を振って見送った。リュウは出て行きかけてからふいにくるりと振り返って私をハグしておでこにキスをした。 「やっぱりこれはお約束でしょ。」 「バカ。いってらっしゃい。」 私はもう一度手を振った。リュウもとっておきの笑顔で大きく手を振った。それから前に向き直って軽い足取りで階段に消えていった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加