49.横取り

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「ごめん、待った?」 正美は急いだ様子で社員通用口から出てきた。 「全然。今来たんだよ、私も。」 正美は自転車置場に歩き出した。 「あまり時間ないんだけど立ち話でいいかな?アヤのお迎えがあるから。」 正美が自転車の鍵をバッグから出しながら聞いた。 「あれ?自転車は?」 脇に立っている私に向かって不審そうな表情を見せる。 「引っ越したの。」 私は何からどう話そうか思案しながら慎重に切り出した。 「実は具合悪くて休んでたんじゃないの。悟と別れたの。」 正美は驚いた顔で私を見た。 「そうだったの…」 「うん。」 私はしばし黙った。正美は私の話を待っている様子だ。 「急だったんだけど、いろいろあって…」 どう話すべきかまだ心が決まらなかった。でも隠すのはやめようと思っていた。 「どこへ?どこに越したの?」 「小杉の方。だから電車なの。」 「そっか…」 会話には微妙な緊張があった。それを正美も感じているらしくいつもの軽口が出なかった。
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