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何も話すべきことが見つからなくて私は黙って立っていた。
「異動だってね。」
正美が口を開いた。
「うん。」
なんと答えていいかわからなかった。
「私はもう会うこともないな。」
正美は独り言みたいにぼそっと言った。
「しばらくは行ったり来たりするって…」
私が言い終わらないうちに正美が言った。
「一緒に住んでるんだってね。」
「あ、うん。今は。」
私は言葉少なに答えた。
「よかったじゃん。うまくいって。」
言い方に棘があった。まだ傷を乗り越えられていないのだろうと感じた。その言葉を受け取る私の側にも良心の呵責があった。
「考えてみれば私も馬鹿だったよ。気づけばよかった。」
目を合わせることがなかった正美が私の顔をじっと直視した。
私は思わず目を逸らした。
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