59.知らなかったこと

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何も話すべきことが見つからなくて私は黙って立っていた。 「異動だってね。」 正美が口を開いた。 「うん。」 なんと答えていいかわからなかった。 「私はもう会うこともないな。」 正美は独り言みたいにぼそっと言った。 「しばらくは行ったり来たりするって…」 私が言い終わらないうちに正美が言った。 「一緒に住んでるんだってね。」 「あ、うん。今は。」 私は言葉少なに答えた。 「よかったじゃん。うまくいって。」 言い方に棘があった。まだ傷を乗り越えられていないのだろうと感じた。その言葉を受け取る私の側にも良心の呵責があった。 「考えてみれば私も馬鹿だったよ。気づけばよかった。」 目を合わせることがなかった正美が私の顔をじっと直視した。 私は思わず目を逸らした。
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