64.ただ、愛してる

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土手に並んで座り川面をただ眺めていた。 もう最後の日が落ちようかという時間だった。 「俺の家はあんな感じ。」 リュウの指さしたあたりには古びた平屋建ての長屋のような家が数棟立っていた。 「そう、ちょうどあんなのだよ。田舎の小さな家。」 私は黙ってリュウの横顔を見ていた。 「お母さんに言われたことやお父さんに冷たい目で見られたりしたことがこたえてるんじゃないんだ。」 リュウは言葉にすることで自分の気持ちを確認しているようにゆっくりと話した。 「俺、今まで自分の家のことなんて関心なかった。古臭くて狭くて汚らしい家だとは思ってたけど、そんなことどうでもよかったんだ。」 リュウはどちらかといえば穏やかな表情で川面を見ていた。 「世の中には金持ちと貧乏人がいて、俺ん家はたまたま金持ちじゃなかったってくらいで。特に誰かのことをあいつん家は金持ちで羨ましいとかって思ったこともあまり無いんだ。強がりにしか聞こえないかもしれないけどさ。」 私はリュウの腕にそっと触れた。リュウが反対の手をその上にそっと重ねる。
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