62.ブルジョアジー

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キッチンで母が呼んでいた。 キッチンは母の趣味の料理の腕が存分に発揮出来るよう、特注で設えてあった。 いつもは様々な趣向の料理のための食材や調理器具の類が置かれているが、今は広い調理台には何も置かれておらずきちんと整理されていた。 「あなた、連れて来なさいって言ってた時は全然来ないで、こんな時に限って彼を連れてくるなんて。」 母が小声で言った。 「だって彼が来たいって言ったのよ。 まったく、帰るなりいきなりお小言だもんね。 いいじゃない?こんな時でもないと彼だって敷居が高くて入って来られないわ。」 私も小声で言い返した。 「それよりお兄ちゃんは?」 私は聞いた。 「ああ、買物を頼んだのよ。 お父さん、午前中はいろいろ検査があるんだけどレイさんが残ってくれてるからトオルと一度戻ってきたの。べったり付き添う必要はないんだけど、やっぱりね。いろいろ不自由だと思うし。 お姉さんに連絡したら見えるそうだからお菓子でも用意しておかないとと思ってね。 そろそろ戻ると思うから、トオルが戻ったら行きましょ。」 母はグラスに冷たいお茶を入れ、盆にのせて客間に持っていった。
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