63.あてつけ

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兄は自分の車を置いて家のセダンで病院まで運転していった。 父の車の中はまるでリムジンのような空間で、塵一つなく清掃されていた。 兄はCDを操作していたが好みのものがなかったらしく何もつけずに走った。 助手席の母が時折兄に話しかけるほかはほとんど無音で、リュウは後部座席の私の隣で無表情に固まっていた。 父が入院している病院は実家から車で15分ほどのところにある総合病院だ。ここの院長婦人と母は旧知の仲ということで、こういう時には何かと便宜をはかってくれるらしい。 急な入院にも関わらず今日にはもう個室に移れるらしかった。 私達が入って行くとナースステーションで部屋が変わっていることを告げられた。 部屋に行くと兄の彼女のレイが病室の引き出しに荷物を片付けていた。 「レイさん、ありがとう。おかげで助かったわ。」 母がレイに言った。 「いえ。私は何も…」 レイは母に言うと私に向かって会釈しながら 「こんにちは」 と言った。
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