63.あてつけ

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父はベッドを起こして新聞を読んでいたが私達が入っていったので新聞を畳んだ。 「お父さん、大丈夫?」 私は父に声をかけた。 「なんだ、みんな来たのか。 たいしたことない。お母さんが大騒ぎし過ぎたんだ。」 父は過労によるストレスで胃だか腸だかからかなり出血したということだった。物が食べられなくなり痩せてやつれていた。 それでも生来、活力のある人で、目にはいつものような力があった。 「お父さん、池田くん」 私は部屋の隅で窮屈そうに立っていたリュウを紹介した。 「池田龍一と申します。 ご、ご挨拶が遅れまして…」 リュウは緊張で舌がもつれそうだ。 私は脇から言った。 「彼とおつきあいしてます。」 「その話はまたね。退院してからでも改めて。」 母がすかさず割って入った。 父も私も何も言う隙がなかった。父はただじっとリュウを見て視線を外そうとしなかった。リュウは困った様子で下を向いた。
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