63.あてつけ

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もうこれ以上、ここにいる理由はなかった。もちろんいたいとも思うはずもない。 リュウは表面上、平静を装ってはいたが、ダメージを受けているのは明らかだった。 これ以上いたら私も我慢出来るかどうかわからなかった。 私は今度こそタイミングを見計らって帰ることにした。 「お父さん、私たちそろそろ失礼するわ。顔だけ見たかったから。お医者様と看護師さんの言うことをちゃんと聞いてね。」 父に声をかけた。 「うん。わかった。 うちに戻ったらまた来なさい。」 父が言った。 「伯母様、お母さん、帰ります。伯母様、お見舞いありがとうございました。残念ですが私はこれで失礼致します。伯母様はごゆっくりなさって。母も寂しいでしょうから。」 私はそう言った。 母は私が帰ることに異存はないようだ。むしろリュウにはこの場から早くいなくなって欲しいのだろう。私たちが帰ると言って心なしかホッとしているようにも見えた。 「あとで夜にでも電話してちょうだい。」 母は言った。 「送っていってやるよ。」 兄が言ったが私は丁重に断った。リュウを解放してあげたかったし、自分も解放されたかった。 「いいの。大丈夫。ありがとう。ゆっくり散歩しながら帰るから。レイさんと食事でもしたら?」 私は儀礼的にレイにお辞儀をした。今日でこの人が決定的に嫌いになった。 リュウは私の後について皆にお辞儀をしながら病室をあとにした。
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