63.あてつけ

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「どこかでご飯食べようか。」 私は言った。リュウはこちらから話しかけないと口を開かなかった。 「何食べたい?」 「なんでもいいよ。」 それ以上建設的な答えが返ってくると思えなかった。何を話しかけたところで生返事ばかりだろうと思った。無理もない。激しく言い争うのも堪えるが、実家にいる間も病院にいる間も存在自体を無視されているようなものだったのだから。 私が逆の立場だとしたらどうだろう? 相手の家に行くだけでも緊張するのに、歓待もされず、あからさまに自分一人が浮いた存在としてそこにいないがごとくあしらわれたら? リュウが一人、沈黙の殻に閉じこもってしまっても仕方ないだろう。 私もこの空気をどうしていいかわからなかった。
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