64.ただ、愛してる

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「俺の親父は地元で俺と同じような仕事してる。配送関係の。母親は港の近くの食品加工会社にパートに行ってる。祖父ちゃんと祖母ちゃんと俺と弟、合わせて6人家族。よくあんな狭い家に6人も暮らしてたもんだよなぁ。弟は俺がこっち出てきて部屋が広くなるって喜んでたよ。」 リュウは懐かしむように笑った。 「高校卒業したら働いて家を出ることしか頭になかったもんな。それが当たり前過ぎてほかに選択肢があるかもなんて考えもしなかったよ。」 私は膝を抱えて座る姿勢で対岸の景色を眺めていた。薄暗くなってきた背景に川向こうの家並みが滲んで見えた。 「たまにみんなで近くの居酒屋にいったりした。親父はそこの常連で、でもたまに俺達も母さんも連れてってくれたりした。祖父ちゃんと祖母ちゃんは行かなかったけどさ。 親父の機嫌が良ければカラオケで演歌かなんか歌っちゃって。演歌とフォークソング専門。」 リュウが私を見て笑いながら言った。 「ミオのご両親は演歌なんか聞かないだろ?」
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