71.過去へ

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リュウはずっと帰って来なかった。リュウだってショックで動転していたはずなのに私がさらに傷口に塩を擦り込むようなことを言って追い詰めたのだ。気持ちを落ち着かせる必要があるはずだ。 リュウだって被害者だ。そう。私の父がしたことなら、私も小野田美保も私たち自身が犯した罪ではなくとも私たちの存在自体がその罪深い血を受け継いでいるわけだが、リュウは他人だ。そういう意味では純粋な被害者はリュウかもしれなかった。 リュウは小野田美保を愛して、彼女が去ったあとも心を残していたところにそっくりな姉の私が現れて、姉とは知らずに私と恋に落ちただけのことだ。 私にとっての小野田美保は今までずっとリュウの元恋人として脅威だったわけで、それがいきなり血を分けた異母兄弟だと告げられて脅威が拒絶の感情に転化していった。その拒絶の感情はあまりに強すぎた。 事実を認めたくなかった。 リュウが愛した小野田美保という存在が私の妹である事実。小野田美保の存在自体を認めたくなかった。 私と小野田美保とリュウが私の中で複雑に縺れ合って、その関係性を認めたくないばかりにリュウまでも拒絶してしまっていた。私の心の中心核ではリュウを求めて喘いでいるのに小野田を愛したリュウを拒絶する感情もあってせめぎあっていた。
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