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見えない糸で操られているようだった。立ち去ろうとしかけたところで糸を繰られてそのまま動きを止められてしまったような。ふと物思いから覚め動き出そうとしたところへリュウが店に入ってきた。
「リュウ…」
驚いて私は言った。
リュウは私を見て、それから背後の小野田を強い目つきで見た。
「俺のいないところで何話してんだよ。」
リュウが言った。
私はリュウを見てそれから小野田を見た。
「リュウイチには関係ない話。」
小野田は平然と言った。
ほんの一瞬、リュウの顔に傷ついたような表情が浮かんだのを私は見逃さなかった。それだけでも私の胸を痛めるには十分な一瞬だった。
「行こう。」
リュウはすぐに無表情に戻ると私の手を取って出口に向かおうとした。
「待って。」
私はリュウの手を離して千円札を一枚テーブルに置いた。
「いいの。私から呼び出したんだから。」
小野田は言って返してよこした。
「はした金でも借りを作りたくないの。」
私は言った。
小野田は黙って私をじっと見ていた。
私は振り切るように出口に向かった。リュウが私の後からついて来た。
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